踏み出した先にあるもの 6




 途中用意していた携帯食で昼食を取り、ルルーシュ達は立ち寄った村で馬を乗り換えた。

 その後は休む時間を惜しむように馬を走らせ、もう限界だとルルーシュが思ったころにようやく到着する。

だが目的地である神殿はまだ見えず、目の前には立ちはだかるように山があった。

 まさかこれを登るのか。顔を引き攣らせるルルーシュに、けれど三人は平然とした顔で立っていた。大きく

背伸びをしたジノがのんびりと、険しい山道を登りはじめる。


「くそ…っ」


 険しい山道は思っていた以上にきつく、早くも息が切れ始めた。容赦なく降り注ぐ陽差しと、歩きにくい地

面に足どりは重くなるばかりで思ったように歩けない。一歩踏み出すたびに体力が奪われていく。

 これもすべてあの男が悪い、すべての元凶はあいつだ。態をつきながら、息継ぎするのも辛いルルーシュは

黙々と足を進める。見かねたスザクが途中背負おうかと申し出たが、撥ね退けた。それを後悔したのは、ルルーシュ

の予想を遥かに上回る険しい山道が三十分ほど続いた頃だ。

 今更自分から言えるはずもなく、ルルーシュは思い通りに動かない体に舌打ちした。


「…ここが、霊水が、あるっていう場所な、わけか…?」


 息も切れ切れに、それでもなんとか辿り着いた神殿の入口前で疲労と安堵にその場にしゃがみこむ。息を整

えている自分と違い、平然としているジノとスザクはいい運動になったと背伸びをしていた。アーニャはジノ

の荷物から勝手に水を出して飲んでいる。

 なんて恐ろしい光景であろうか。


「ずいぶん、質素な建物だな」

「中がすごい」

「え、なに?アーニャ知ってんの?」

「知るわけない」

「だよなー」

「そんなことはどうでもいい」

「どうでもいいって殿下…いや、何で睨まれるんですかね。…ええっとですね、そういやココ、中に入った人

間は誰一人として帰ってこないって話です」

「お前いま、さらりと言ったな…」


 無残に廃墟と化した神殿を見上げて、ルルーシュは乾いた笑いを浮べた。はたして自分は無事に戻って来ら

れるだろうか。


「噂でしょうけどね。さて、ここでへたり込んでいても時間の無駄なんで、入りますか」


 この男の能天気さが、つくづく羨ましい。


「足元に気をつけて、ルルーシュ」


 足を踏み入れた神殿の中は暗すぎて、どうなっているのかよく分からなかった。瓦礫に足を取られないよう

にしようと思った途端に躓いて、スザクを慌てさせる。


「大丈夫かい、ルルーシュ」

「す、すまない、スザク…」

「暗すぎて、ほとんど何も見えないな」

「歩く度に砂が舞う。邪魔」

「ジノ、これに火をつけてくれる?」

「これでいいか?」

「ああ、それをみんなに渡して。それから予備を渡すから、各自で火を絶やさないようにしてくれ」


 ジノから渡された松明でルルーシュは辺りを照らした。崩れかけている壁は見るも無残な姿である。ところ

どころ大きな亀裂の入っている箇所があり、これではいつ崩れるか分からないと心配になる。


「明かりがあるだけで、ずいぶん違うな」


 四本の松明の光を頼りに、二人が並んで歩けるだけの広さしかない通路を進んだ。先頭はジノで、アーニャ

とルルーシュが並んで歩く。スザクは三人の後から周囲を警戒していた。しばらく歩くと、通路が右に折れて

いる。そこを曲がってしばらくするとまた、二手に分かれる道に変わった。


 どちらに進むべきか。


「さて、どっちにしますか?」


 壁に耳をつけていたジノが聞いてきた。どっちと言われても、こういった場面での経験は積んでいない。困

ったようにスザクを振り返ると、彼はしばらく考えた末に右を指差す。

 このやりとりが、何度か繰り返された。


「…どこまでも続くのかな。終わりがないから不気味」

「私も同じ感想だよ、アーニャ。奥に進んではいるみたいだが、方向がわからない」

「不思議な場所だね。ルルーシュどうしたの?」

「ああ、確かめていたんだ。触ってみろスザク、最初から変わらないと思っていた壁も、よく見れば違う」

「本当だ、手触りが違うね。見た目は全く同じなのに」

「なるほど、錯覚か」

「そうだ、ジノ。人間は視覚による認識が強いからな」


 おそらくここが使われていた頃は、侵入者の方向感覚を失わせる役割を果たしていたのだろう。明かりが

なければ触ることで違いが分かってしまうが、今までルルーシュ達は気付かずにいたのだから、大したものだ。


「おそらく神殿内部には進んでいる」

「不気味さは増してるけどな」


 ジノの言葉が証明するように、木霊する声は薄暗い空間に吸い込まれ消えていき、どこまでも続く道は暗

闇に包まれて不安をあおる。

 それでもルルーシュ達は進んでいくしかない。この道を選ぶ前に一度もと来た道を戻ろうとしたが、道が

なくなっていたからだ。探しても綺麗に消えた道は見つからず、残されたのは前に進むことだけになった。

 



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