踏み出した先にあるもの 5




 何度か来たことのある町の様子を見ながら、ルルーシュ達は合流場所へと急いでいた。


 あまり民の前に姿を見せる機会を持たない自分が見られたからといってさほど心配する必要ないが、用心の

ためにスザクが用意してくれたマントで顔を隠す。行き交う人々はみなが自分の用事に忙しそうで、幸いあま

り目を止める者はいない。


「ようやく来たか」

「遅い」


 待ち合わせの場所しか知らされなかったルルーシュ達を待っていたのは、ジノとアーニャだった。皇帝直属

のナイトオブラウンズが同行者なのかと驚いているルルーシュに、先に馬からおりていたスザクがごく自然な

仕草でルルーシュの手を取った。

 彼の手を借りて馬をおり、ジノ達の案内に従い素早く場所を移動する。町外れの酒場の裏手に繋いでいる彼

らの愛馬をジノが取りに行っている間に、ルルーシュはアーニャから情報を聞いた。

 どうやら霊水は、廃墟と化した神殿に眠っているらしい。ルルーシュも初めて聞く場所だ。


「…かなりここから遠いな」


 スザクが眉を寄せて呟く。その横でジノは呑気そうに頷いていた。


「だから殿下は、スザクと一緒の方がいいと思うんですよね」

「なんだど?どういうことだ」

「だって乗る時間が半端じゃないんですよ。殿下、体力ないでしょ?」


 眉を寄せるルルーシュに、ジノが失礼極まりない発言をする。彼の横で我関せずと立っているアーニャがだ

るそうに口を開いた。


「事実」

「…」


 それについてはルルーシュ本人が一番自覚しているため、彼女に反論するうまい言葉がみつからない。不本

意にもアーニャのひと言で話は綺麗にまとまり、宥めるように肩を叩くスザクに促されて歩きだすことになる。

 嬉々として馬に乗るジノに溜め息を吐いて、ルルーシュは差し出されたスザクの手を取った。


「安全第一に考えるから」

「当たり前だ」


 馬の背に上がり、手綱を取るスザクの体に落ちないように腕を回す。しばらく互いに無言だった。


「…広いな」


 目の前に広がる大自然。ルルーシュは新鮮な外の景色に目を奪われていた。しかし時間が経つにつれ、町を

出てからひたすら続く豊かな緑と舗装されていない道の単調な景色に飽きがくる。


「退屈?」

「…少しな」


 気づいたスザクが苦笑しながら聞いてきた。ルルーシュは彼の体温の心地よさに寝てしまいそうだと思う。


「寝たらダメだよ」

「分かってるさ」


 そう憮然と返せば、スザクが左手を後ろに回し宥めるように肩を叩いた。一定のリズムを保つ手と、そこか

ら伝わる彼の気遣いが嬉しい。


「そうだ、ルルーシュ。霊水を手に入れたら、町を見て帰ろうか」

「え?」

「だって民の暮らしぶりを見て回るのも仕事のうちだしね」

「…なんにでも使えそうな口実だな」


 しかしこれで、少しは眠気が吹き飛んだ。あとどれくらい我慢すれば万病に効くというありがたい霊水のあ

る神殿に辿りつくか知らないが、機嫌も浮上する。


「しっかりつかまっててね、ルルーシュ」


 体に回している腕に力を入れ直したルルーシュに、スザクが手綱を握り直して馬の腹を軽く蹴った。

 スピードが更に上がり、景色がものすごい速さで流れる。

 追い越されたアーニャと、距離を離されたジノの抗議の声が、遠く後ろから聞こえてきた。





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