踏み出した先にあるもの 3




 スザクの様子がおかしいことに、ルルーシュは気づいていた。

 何かあったのか?そう思って直接本人に聞いてみても、彼は笑顔で「何でもない」と言って首を振る。

 納得できないルルーシュは何度も同じ質問を繰り返すが、スザクはうまい具合にはぐらかして答えない。

 まさか、自分では相談相手になれないのか?

 頑なに拒む彼の態度からその可能性にたどり着き、不満だった気持ちが一気に萎んで落ち込みに変わっ

ていく。

   なぜか胸が痛んだ。

 けれどルルーシュには意味が分からず、体におこった変化に戸惑いながら傍らに立っているスザクに目

を向ける。

 心配そうな声と表情を浮かべた彼に、今度は心臓が小さく跳ねた。知らず知らずのうちに息を止めてし

まい、これでは逆効果だとルルーシュは思う。

 案の定、それを気分が悪いからだと思ったスザクに余計な心配をかけたのは、いうまでもない。






 今日もいつもと同じ時刻に部屋へとやってきたスザクにぼんやりとする頭のまま挨拶をして、ルルーシュ

は寝台から起き上がった。


 のろのろ体を動かしながら、彼が渡してくれた服を受け取る。ルルーシュは他の皇族達と違って身の回

りのことは自分でするため、スザクにしてもらうことはない。席を外したスザクが再び姿を見せるのは、

ルルーシュが部屋の隅に用意された水で顔を洗い、少し頭がはっきりしてきた頃だ。

   ルルーシュは迎えにきたスザクと共に食堂へ向かい、部屋に入ろうとしたところで、急に目の前に飛び

出してきた鮮やかな色に驚いて足を止めた。


「おはようございます、ルルーシュ、スザク」


 視界を塞いでいたのはユーフェミアだった。振り向いた彼女がにっこりと笑う。そういえば、今朝は彼

女達姉妹と一緒に朝食をとる約束をしていた。


「ユフィ、おはよう」

「おはようございます、お兄様、スザクさん」

「おはよう、ナナリー。おはようございます、母上、姉上」

「遅いぞ、ルルーシュ。朝が弱いのは相変わらずのようだな」

「おはよう、ルルーシュ。今日はスザクを困らせなかったのかしら?」

「当たり前じゃないですか」

「それならよいのだけれど」

 くすくすと笑う母に肩を竦めて、ルルーシュは席につく。続いて座ったスザクを合図に、侍女達が朝食

を運んできた。

 他の皇族にはあり得ないことだろうが、ヴィ家では騎士であるスザクも一緒に食事をとる。最初は断っ

ていた彼もナナリーにぜひと誘われ、さらにマリアンヌやルルーシュが反対どころか同席を快諾したので、

断る理由がなくなったのだ。

 食事は和やかに進む。


「そうそう、ルルーシュ」


 今日するべきことをルルーシュが思い出していると、母に呼ばれた。パンに手を伸ばしていた手が中途半

端に浮いた状態でとまる。嫌な予感がした。


「まだ何も言っていないわよ?」


 顔に出したつもりはないルルーシュに、お見通しの母が可愛らしく首を傾げて見せる。その無邪気ともい

える仕草のひとつひとつが曲者だと知っているルルーシュは、出かかった溜息を抑えるのに苦労した。


「…なんでしょうか」


 ルルーシュは水を一口飲んでから母を促す。


「皇帝陛下が風邪をひかれたことは聞いていると思うのだけれど……、あら?知らなかったかしら?」

「…は?か、風邪!?ちょっと待ってください。全然知りませんよ!」


 予想もつかない言葉を耳にして、ルルーシュの目が驚きで大きくなった。唖然としている息子を見ても、

母の笑顔が崩れることはない。


「過労だそうですよ」


 それこそ、あの男には一番無縁なのではないか?


「そこでね、ルルーシュ」


 母の声で、あまりの衝撃に途中から話を聞いていなかったルルーシュはわれに返る。


「嫌、です」

「どうして?」

「よくご存じでしょう」


 もちろん嫌だからだ、とルルーシュは大声で言いたかったが、かろうじて飲み込んだ。


「そう、じゃあいいわ」


 ほっと胸を撫で下ろすも、母は次なる爆弾を投下する。


「もう一つにするから。もちろんルルーシュは、私のお願いを聞いてくれるわよね?」


 これに首を横に振れればどんなにいいかと、ルルーシュは切に思った。助けろとスザクを睨んでみても、

肩を竦めるだけの彼に助けは期待できそうにない。

 ルルーシュは気分を落ち着かせるために、グラスに残った水を飲み干した。





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