サンプル(みわこ)
魔女は嘆く、彼らの選んだ道の険しさに。
魔女は涙する、彼らを想うあまりに。
魔女は笑う、願うことは許されないと知りながら。
魔女は祈る、きっと来る彼らの明日のために―――。
皇歴2018年、悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは倒れ、世界は平和という一つのテーブル
につくために歩みだした。
憎しみの連鎖を断ち切るために動いた彼の思惑も気遣いも願いさえ世界は知ることもなく、数少ない
真実を胸の内に隠す者たちは彼の残した明日を生きながら口を閉ざす。
どんな明日になるのか分からない。
昨日と同じだと思うこともあるだろう。
もしかしたら今日という日を変えたくないというかもしれない。
それでも世界は前に進み、変化していく。
その明日に、『枢木スザク』という一個人ではなく、世界を救った英雄ゼロとして生きて一生を捧げ
てもらうと言った―――彼。
彼は優しかった。慈愛に満ちていた。残していく世界の明日を想い、心を砕き、自分にずっと望んで
いた罰をくれた。
(けれど君は、一度も君自身を大切にしてはくれなかったね)
だからだろうか、こんなにも胸が痛いのは。
その所為なのだろうか、訳のわからない衝動に叫んでしまいたくなるのは。
君がついた優しい嘘、君が残した新しい世界、それと引き換えに、人々の願いにかかって世界から消
えた、君。
それがこんなにも辛くて、苦しいことだったなんて、自分の甘さに自嘲する。
気がついたら彼の姿を探している自分がいて、君がそれを見たらどう思うだろう。彼の笑顔を思い出
すたび、ひどくなる胸の痛みにうまく息ができない日が増えていくことを知ったら、何と言うだろうか。
―――会いたい
スザクは自然とそう呟いた自分に、驚愕した。動揺し、そのせいで腕が近くの円卓にぶつかってしま
う。置いていたグラスがバランスを崩して倒れ、僅かに残っていた水が零れて小さな水たまりを作った。
スザクは自分の情けなさに舌打ちして、備え付けられているキッチンの流しにグラスを乱暴に置く。
変な音が聞こえたが、構うものか。
(考えるな、何も考えるな)
強く強く言い聞かせて、スザクは抑えきれない激情に飲み込まれないように唇を噛みしめる。
頭に浮かんだ恐ろしい考えに震える手には気付かない振りをして、必死で明日のスケジュールを思い
出しながら、固く目を閉じた。
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