サンプル2




 ひさしぶりの城下は活気にあふれていた。

 ルルーシュは何度か来たことのある露店街の近くで馬を止める。何度言っても聞き流すスザクが、

今日も先に馬から降りて、ごく自然な仕草で手を伸ばしてきた。その手とスザクの顔を交互に見て、

溜息を小さくついてから自分の手を重ねる。

 苦笑するスザクを睨みながら、それでも繋がれた手を解こうとはしない自分は最初から負けている。

 あまりの人の多さに何度か迷子になりかけた自分を見かねたことが始まりだけれど、彼の気持ちを聞

いた今ではその意味も少しずつ変わっている気がして、ルルーシュはいたたまれない。

 なら手を離せばいい。そう思うのに出来ないのは、逆に意識しているようだと思うプライドと、繋い

だ手のぬくもりを手放したくない理由の両方だ。


「少し休憩しようか」


 今日もまた振りほどくタイミングを逃しているルルーシュに、スザクが飲み物らしきものを売ってい

る屋台を指差した。

 城からここまではたいした距離ではないが、そう言われれば急に喉の渇きを意識する。頷いたルルー

シュはスザクに手を引かれながら屋台に近づいた。

 大勢集まっている広場の中でこの店が一番繁盛しているようだ。愛想のよい青年にスザクが二人分の

代金を支払っている横でルルーシュは周囲にさりげなく目をやる。

 自分の正体に気づく者はいないようだ。よかったと胸を撫で下ろしながら、スザクに促されて場所を

移動した。


 何度か視察の目的で城下を訪れているルルーシュだが、皇族だと知れると大変なことになるためにど

こから見てもおかしくないように服装には十分注意していた。

   当初こそ緊張していたものの、最近では楽しむ余裕もでき、たまにはこうして露店で買ったりもする。

その場合はスザクが安全だと判断している店のみだけれど、ルルーシュには嬉しかった。城から出ること

が自由にできないルルーシュにとって、身近に民の生活に触れあえる機会は貴重なのだ。

 受け取ったスザクがルルーシュより先に一口飲んだ。スザクの毒見にルルーシュは不快気に顔を顰めつ

つ渡された新鮮な果物の飲料水に口をつける。こればっかりはいつも平行線をたどるが、喉を通って行く

水分が細胞の隅々にまで行きわたって、生き返った気分になった。






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