サンプル(千維)
カツ、カツ、と静まり返った宮殿の奥深い廊下を、ルルーシュは手にした燭台の灯りだけを頼りに歩いていた。
この場所にはルルーシュを含め数人しか入らないように言いつけているが、この先には今は亡き皇帝の騎士の部
屋と使われていない部屋があるだけで普段から人が通ることはほとんど無かった。
カツ、カツ、コッ
それまで一定の間隔で響いていた足音が一つの扉の前で止まった。
コンコン
2回続けて扉を叩く。
暫く待つ間に中の様子を窺うが、既に眠ってしまったのだろうか返答はない。
「スザク。……起きているか?」
躊躇いつつもルルーシュは僅かな期待を込めて扉の向こうへと声をかけた。
もう、眠ってしまったのか……
返事の返らない扉へルルーシュは小さく吐息をつくと扉に触れていた手を離した。
「スザク……寝ているのならいい」
独り言のように呟くと今度こそ扉に背を向けるために一歩脚を下げた。
「待って!」
それまで静かだった扉が声と共に勢いよく開かれ、驚いたルルーシュは反応できず、固まったまま瞠目する。
「ルルーシュ! 待って」
いつも以上に乱れた茶色の癖毛の間から碧玉の瞳がルルーシュの瞳を捉えた。その瞳の強さに奥深い部分がちり
りと反応したが、ルルーシュはそれに気付かない振りをして押さえ込みスザクに向かっていつものように微笑む。
「悪い、起こしてしまったか?」
「……いや、起きていた」
「そうか」
沈黙が二人の間に落ちる。スザクの視線が下がり俯くため自然とルルーシュの視線に茶色の頭が入る。子供の頃
から癖が強く、スザク自身持て余すこともあった髪は頑固なスザクの本質をそのまま現しているようで嫌いではな
かった。むしろ好ましく思っていた。
「君も、眠らないの?」
髪をかきあげながらスザクがルルーシュに問い掛ける。ちらりと窺うように向けられた瞳に僅かな揺れを見たよ
うな気がしたが気のせいだろう。
「それとも、眠れない?」
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