存在確認
存在確認
「あれ…?」
いつの間に眠ってしまっていたのか。気がつくとカーテンの開け放たれた窓から夕日がさし込んできていた。
重い瞼を擦りながらゆっくり体を起こすルルーシュに気づいたスザクが、座っていたソファから立ち上がる。
「おはよう、ルルーシュ」
「……使い方が間違っている」
「うん、夕方だからね」
間違った挨拶をしてくるスザクに、なんでこんな時間に起きたのかを正確に理解したルルーシュは痛むこめか
みを押さえて溜め息をついた。どうりで体がだるいはずだ。と同時に、こうなった原因が自分にもあることをも
思い出して、さらに深い溜息が出た。
けれどすぐに何も着ていない自分の状態に気づき、顔を真っ赤して渡された服を慌てて着る。ベッドから下り
た途端に足がふらつくのが腹立たしい。
「大丈夫?」
「訊くなっ!」
その様子を見ていたスザクが、嬉しそうにわざわざ口に出して聞いてきた。それに抗議の声と枕を投げつけて、
ルルーシュとは正反対の表情を浮かべている彼に舌打ちしてソファに座る。
「拗ねないでよ、ルルーシュ」
「誰がそうさせていると思っているんだ」
くすくすと笑うスザクに憮然と答えつつも、用意してくれていた水は素直に受け取って口をつける。自分で思
っていたより喉が乾いていたらしい。喉を潤していく水が美味しかった。
一息ついたルルーシュを待っていたかのように、スザクがカラになったグラスをテーブル脇に置いた。その動き
をルルーシュはいつものように目で追って、彼の次の行動を待つ。
ルルーシュにとっては非常に歓迎すべきことではないのだが、これが最近よく行われる二人のやりとりだ。
だから今日もスザクは嬉しそうに笑い、ルルーシュの横に座ってすぐに抱きしめてきた。やんわりと、自分が
動けば離れてしまうような、そんな抱き方をして髪に口づけてくる。
髪の次は額、額の次は鼻、両頬へと続き、最後は必ず唇にたどり着くスザクの口づけは、可愛らしいものばか
りで、ルルーシュはくすぐったいと笑いながら、一度として止めたことはない。どこまでも優しい口づけが心地
よくて、スザクの求めるまま、自分の望むままに限られた時間を過ごす日々。
二人して顔を見つめあい、目の前にいる存在を確認して、満足気に笑う。
「…ルルーシュ」
「好きだ、スザク」
「僕も好きだよ、ルルーシュ」
「驚かないのか?」
「だって何度も驚かされたからね」
「つまらんな」
言葉とは裏腹に笑顔で返すルルーシュに、スザクが抱きしめる腕に力をこめて口づけをくれる。
しっかりと自分を抱きしめるスザクの力強い腕と、彼から聞こえる心音。
暖かな体。
「なあスザク」
「なに?」
少し動けばお互いの唇が触れあう距離にいるスザクに、ルルーシュは彼の背中に回していた腕を首まで動かした。
突然の行動に至近距離で目を丸くさせて驚いているスザクに、掠めるだけのキスをしてからわざと上目使いで笑っ
てみせる。
「足りないっていったらどうする?」
「―――っる、る、ルルーシュ!?」
一瞬固まったスザクの、その後の見事な変化にルルーシュは満足気な顔を浮かべて、慌てふためいている彼の名前
を機嫌よく呼んだ。何度も呼んでいると、彼は大きく息を吐いたあとに体の力を抜いて凭れかかってきた。まるで大型
犬に抱きつかれているようだ。
「…ルルーシュ」
「たまには俺が勝つのもいいだろう」
「勝ち負けの問題かなぁ…」
笑顔で答えるルルーシュに、スザクが拗ねた声を出しながら顔を上げた。
「……」
「……」
「「……っぷ」」
見つめること数秒。お約束のようにお互い吹き出して、どちらともなく目を閉じる。
そうすれば後はもう、二人を止めるものは何もなくて。
その濃密すぎる時間は、同居人からの邪魔が入るまでずっと続くのであった。
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