嘘と真実と

      嘘と真実と




          君を憎む気持ちと愛しいと思う気持ち。どちらも本当で真実で。

          狂いそうになるこの想いを抱えながら自分は途方にくれる。

          今度こそ間違えたくないと願っても、何故か自分の思い通りにはいかなくて。

          焦りと憎しみ、怒りと混乱、様々な感情が体を支配する。

          あの時、自分は決めたのに。誓ったのに。

          それなのに、どうして自分はこれほどまでに迷っているのか。

          まさか、後悔しているとでもいうのだろうか。

          あの時、君の手を取らなかったことを。





          空は憎らしいほどに晴れ渡っていた。

          一段一段、スザクはゆっくりと長い階段を上っていく。

          指定した時間より早く枢木神社に来たのは、ルルーシュと会うまでにスザクにどうしても行きたい

         場所があったからだ。

          まさか、またここに来ようと思う日が来るとは思っていなかったからか、知らず緊張していた肩に

         思わず眉が寄った。ほぐすように両肩を軽くまわして、スザクは境内の奥へと足を進める。

          まもなく、記憶の中にある場所を見つけて足を止めた。そして数ある木の中でも一番背が高くて大

         きい一本に目を向ける。


          「…なんだ…」


          そこは、変わっていなかった。

          月日の流れと共に木の成長の変化はあるのだろうが、スザクには当時と違いは分からなかった。

          木は記憶にある時のまま、同じように自分を見下ろすばかり。スザクは一度大きく深呼吸をする。

          それから腰を落として、そっと木に触れた。指先から僅かに離れた場所に、彼と二人で刻んだ思い

         出の証があるはずだ。

          スザクとルルーシュと、そしてナナリーの名前が。

          その場所に触れようとして、出来ずに手を握り締めた。

          おもわず浮かぶ自嘲の笑みに、スザクは目を閉じて視界を遮る。


          (……ルルーシュ)


          木に刻まれた名前。交わした約束の証。楽しかった時間。

          そこには確かに、あの頃の思い出があった。


          (…まだ…)


          自分は間に合うだろうか。手を伸ばすことが許されるだろうか。

          ずいぶん遠いところまで来てしまったけれど。

          もうすぐ。あと少しで。


          「あえるんだ、君に…」


          ルルーシュ、と音に出さず名前を読んで、目を開けたスザクは木に刻まれた自分と彼の名前を見つめ

         続けていた。






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