日常の中のイレギュラー

日常の中のイレギュラー




   空は快晴、お天気日より。

   こんな日はどこか遠くに出かけてみたくなる、そんな一日。

   せっかくの休日に、けれどルルーシュは一人憂鬱気分を味わっていた。


   「風邪だね」


   昨日はなんともなかったのに、なぜ今日になってと落ちこんでいるルルーシュに、

  スザクがいつもの爽やかな笑顔でそう告げた。

   そんなことは言われた本人が一番分かっている。わざわざ口に出すスザクを睨めば

  彼は体温計をケースに戻しながら苦笑した。


   「そんな顔してもダメだよ」

   「…こんなはずじゃなかったんだ…っ!」


   軍のあまりの忙しさにずっと休みが取れなかったスザクと、今日は久しぶりに出か

  けることができる日だったのだ。かなり楽しみにしていたこともあり、ルルーシュは

  本当に本当にこの日を待っていたのに。


   「…俺は馬鹿か…」


   理不尽な怒りと情けなさにルルーシュが八つ当たりをする相手はもちろんスザクし

  かいない。悪いとは思っているが、それでも彼にしかぶつけられないのだから仕方な

  いだろう。

   それに悔しいじゃないか、こんなに自分は行けないことが悲しくて残念なのに、ス

  ザクはそんなことまったくありませんという顔をして。ルルーシュは非常に面白くな<い。

   スザクだって、今日を楽しみにしていると言っていたではないか。だったら少しく

  らい顔に出せと、ルルーシュの怒りがさらに増していく。


   「ルルーシュ」

   「………」


   濡らしたばかりのタオルが額に置かれても、ルルーシュは眉を寄せたまま睨みつけていた。

   布団の隙間を丁寧に塞ぎながら、スザクが笑って小さい子供にするように頭をぽん

  ぽんっと撫でる。


   「熱が上がるよ」

   「………」

   「ルール」


   返事をしないルルーシュの視線を受止めて、仕方ないでしょうと言わんばかりに困

  った笑みを見せたスザクの手が、撫でていた頭から頬へと降りてくる。

   熱で火照った顔にはその手が冷たくて気持ちよく、ルルーシュは無意識に頬を摺り寄せた。

   彼が小さく笑う。


   「ルルーシュ」

   「…なんだ」


   まだ機嫌は直っていないけれど、スザクに触れているだけで気分が浮上してくるか

  ら不思議だ。口が裂けてもそんなことは言ってやらないと思いつつ、ルルーシュは少し

  体を屈めたままの格好でいるスザクのシャツの裾を引いた。

   彼がベッドの端に腰かける。

   そのことで離れた手を目で追えば、すぐに気付いたのかまた頬に添えられた。


   「気分はどう?」


   頬に置いている手とは反対の手でスザクが暖かくなったタオルを取って、汗ではり

  ついたルルーシュの前髪を掻きあげる。


   「しばらくそうしていろ」


   答えになっていない返事を返せば、スザクが苦笑して優しく頬を撫でてくれた。

   それが心地よくてルルーシュは目を閉じる。


   「ルルーシュ」

   「…ん?」

   「少しでも食べれそう?できれば何か入れてから薬を飲んだほうがいいんだけど」

   「ほしくない」


   食欲などなかった。しかし彼の言うとおり何か少しでも食べたほうがいいだろう。

   ルルーシュはスザクに支えてもらいながらゆっくりと体を起こす。

   彼が背中に枕を入れてくれた。


   「大丈夫?」

   「ああ」


   眩暈はあるが、熱が高いわりに気分はさほど悪くない。心配そうに自分を見つめる

  彼に頷けば、彼が緩く抱きしめてきた。背中をさすってくれる手が心地よい。


   「食べたら薬を飲もうね。で、その後は体を拭いてあげるから」

   「ああ…って、は?………な、なに!?いい!じ、自分でやる、いらんことはするな!」


   ルルーシュは思わず頷きかけ、慌てて首を横に振った。しかし首を振ったことでおさ

  まっていた眩暈が復活し、スザクの腕に倒れこむ。


   「大丈夫?急に動くからだよ」

   「…おまえが変なこと言うからだろ」

   「何を今更恥ずかしがってるの」

   「恥ずかしいだろ、普通…」


   百歩譲って、スザクが変な意味で言ったのではないとしても、彼が言うとそう聞こえない。

   それにいくらスザクでも恥ずかしいものは恥ずかしい。いや、彼だからこそ余計に羞恥が増す。


   「いつも見ているのに」

   「ば、馬鹿かっ!それとこれは違うだろっ!」

   「同じだよ、ルルーシュ」

   「違う!」

   「ああほら、そんなに興奮すると熱が上がるよ」

   「誰がさせて…っ、んっ…!」


   文句の途中、黙ってなさいといわんばかりにスザクの唇で塞がれ、抵抗もなんなく押さ

  えこまれた。不本意にも熱い吐息が漏れる。


   「……っ、はあ…」

   「ルルーシュ」


   ぐったりと力を失ってしまったルルーシュの体を抱きとめて、スザクが耳元で囁くように名前を呼ぶ。

   ルルーシュは荒い息のまま、額に、こめかみに、キスを落とすスザクを睨んだ。けれどきっと熱と

  別の意味で潤んでしまった目では、彼を煽るだけなのだろうとぼんやりとした頭で思う。

   案の定、笑みを深くした彼にもう一度口付けられた。

   今度はもっと深く、ルルーシュの意識をさらっていく。


   「…ふ…、…ん…っ」

   「…ルル」

   「ば、か…スザ…っ!」


   熱を下げる気があるのかないのか、どっちなんだと内心で悪態をつくが、スザクは止まらない。

   スザクの思いが伝わってきて、さらにルルーシュを惑わせる。

   そうしているうちに彼の舌が遠慮なくルルーシュの咥内へと入り、ますます熱が上がって。


   「…ふ…ぁ…!」


   力が抜け霞みがかってきた意識の中で、ルルーシュは後で辛いのは自分だと思いながらも、

  腕をスザクの首へと回し、抱き寄せていた。







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