過去の日に

過去の日に




  太陽が昇れば動き出す一日。繰り返される日常。

  無感動に、無気力に。通り過ぎる人達の中に自分も埋もれていく。

  何かを探し、けれどそれさえ忘れて。

  過ぎていく日々の中で。

  いったい自分は何をしているのだろうと、焦りや不安が心を覆う。



  だからかもしれない。

  過ぎ去ったあの頃を、こんなに懐かしくおもうのは。






   親友同士というやつだろう。

   数分前に店へ入ってきた二人を見て、最近では使わなくなった言葉がふと頭に浮かんだ。

   一人は制服を着ていた。有名なアッシュフォード学園のもので、もう一人は長いロング

  コートとサングラスをしている。

   学校が違うのだろうか。このくらいの年ならばお互い違う学校に行くと自然と疎遠になっ

  てしまうものだが、彼らの様子からして、それは違うらしい。

   楽しそうに話をしている彼ら。

   気に入った物があったのだろう、いくつかの商品を持って今度はその中のどれにするかを

  決めている。

   それをずっと見ている自分に気づいて、慌てて目を逸らそうとしたのだけれど、なぜかで

  きなかった。

   制服を着た子があまりに綺麗だからもあるし、もう一人の子の個性的なファッションのこ

  ともある。


  (…だけど違う、そうじゃない)


   それだけじゃない。自分が目が離せないのは。


  (…あ…)


   分かった。彼らがとても楽しそうだから、だ。

   彼らの表情から、目が離せないのだ。

   真っ直ぐで、染まってなくて。この年で純真無垢もないけれど、それでもあの頃の自分の姿

  と重ねて、懐かしさを感じるからだ。

   見惚れるくらいに綺麗で、嫉妬するほどに楽しそうな笑顔に複雑になる気持ちはごまかせ

  ないのは許してほしい。

   本当に楽しそう、と溜息をついて、さすがにこれ以上見ていたら悪いと思い仕事に戻ろうと

  思うが、気がつけば視線は彼らに向いてしまう。

   だからだろうか、気づいてしまったことがあって、なぜか自分がショックを受けている。

   二人ともよくしゃべり、それはそれは微笑ましいかぎりなのだけど、手振り身振りを交え

  る彼らの中に触れてはいけない部分があったような気がして、そっと眼を伏せた。

   笑い合う二人の声。声だけなら何も分からない。分かっては、いけない。

   どうかいつまでも笑っていられるといい。時間は永遠じゃないからこそ、大切なのだ。

   一度彼らに眼を向けて、依頼を受けたプレゼントのラッピング作業へと戻っていく。

   あと少ししたら、お客さまが取りに来る時間だ。

   正直彼らをまだ見たいと思ったけれど、顔を上げなかった。楽しそうな笑顔だけを思

  い浮かべて。

   懐かしい気持ちにしてくれた二人に心の中でお礼と、そしてこれからの二人の未来に声援を

  送る。



   どうかその笑顔を忘れないで。

   いつか思い出す昔が愛おしかったと思えるように。

   今は精一杯楽しんで、泣いて、我侭言って、笑いなさい。


   限りある時間に敬意を払いつつ。






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