理由なき確信

理由なき確信




「なあ、スザク」


 今日すべきことは全部終わらせ、あとは寝るだけという時間を過ごしながら、スザクの胸に背中を預け

ていたルルーシュは顔を上げた。

 少し冷めてしまったミルクティーをひと口飲んで、ふと気になっていたことを聞く。

 ルルーシュの髪を梳いていたスザクが、手を止めずに目だけで問いかけてきた。


「俺のどこが気に入ったんだ?」

「突然な質問だね」


 全然そう思っていない顔で、彼が眉を上げる。驚く様子もないのが少し腹立たしい。


「ただ気になっただけだ。別に答えたくないなら構わないが」


 といいつつ、ルルーシュは聞きたかった。

 自分のどこが好きで、気に入っているのかと。

 自分の何が彼にはよいのだろうかと。

 わざわざ男の自分を選ぶ理由を、知りたかった。


「知りたい?」

「まあ、な」

「分からないの?」

「……分かっていたら聞かないだろう」

「本当に?」

「スザク。言いたくないのなら、別に…」

「分からないよ」

「は…?え、あ…ええ?な、ないのか!?」

  「そんなに驚かなくても。うん、ないよ。だって僕にも分からないからね。どこが好きかって?

ルルーシュが好き、それだけだよ。理由ならそれだけ。だから答えるなら『好きだから』かな」


 さらりと、当たり前のことのように言ってスザクは笑う。ルルーシュの方はどう反応すればいいのか

分からず、しばらく迷った末に、背中に感じるスザクのぬくもりに息を吐き出して体の力を抜いた。


「……聞いてて恥ずかしくなるな…。でも、何かないのか?」


 それでも後ろを向いて聞けば、少し困ったように微笑むスザク。


「ないってば」

「そんなものか?」

「僕が聞いたら素直じゃない反応ばっかりなのに。今日はどうしたの、ルルーシュ」


 いつになく拘るルルーシュに、スザクが苦笑して髪を遊んでいた手を止めて顔を覗き込んでくる。深緑の

瞳。その目を見つめ返しながら、ルルーシュは手を伸ばして頬に触れた。

「なら、ルルーシュは僕のどこがいいの?」

「全部」

「即答、ありがとう。でもそれだったら僕と同じじゃないか」

「どこがだ」

「まあ、僕の場合は『愛してる』から、ちょっと違うかもしれないけど」

「…よくそんなことが平然といえるな…」

「そうかな?」


「……これだから天然は」  心臓の音がさっきから鎮まるどころかひどくなるばかりだ。ルルーシュは赤くなった顔を両手で隠しな

がら、笑い続けているスザクを睨む。

 それを受けてさらに笑みを濃くする彼に、ルルーシュは目を合わせていられなくなり、残っていたミル

クティを飲みほした。

 さめてしまったミルクティの甘さが喉に残る。


「ルルーシュ、好きだよ」


 どうにか意識を逸らそうとしていたルルーシュの耳元で囁かれる言葉。わざと息がかかるようにする

スザクに、ずるずると力が抜けて彼の胸に凭れる形になった。

 抱きしめてくる腕にますます顔が上げられない。


「…っ、お前…!」

「ルルーシュ」

「…っ…」

「愛しているよ」

「……うう……」

「返事が聞きたいな。ねえ、ルルーシュ」


 頼むから、これ以上耳元で言わないでくれ。思うのに、ルルーシュの意思に反して体は彼の望むままに

反応を返してしまう。だからこれも、スザクの所為だ。


「……好きだ」

「聞こえないよ、ルルーシュ」

「二度は言わない!」

「うん」

「責任とれよ!」

「もちろん。ずっと側にいるよ」


 たとえ君が嫌になったとしても、とスザク。

 ルルーシュはこれ以上なりようがない真っ赤な顔で体ごと振り向き、憎たらしいくらいに満面の笑顔を

浮かべるスザクに抱きつく。

 抱きしめ返してくれる腕が嬉しい。


「そんな日は、一生こない」


 だから覚悟しておけと、そう言い放ち、ルルーシュは自分からキスをしたのだった。








短編