連敗更新中

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 生徒会室から見た空は今にも降り出しそうな空模様だった。

 けれどここから寮までの距離はたかが知れていて。それまでは大丈夫だろうと判断したル

ルーシュは、折りたたみ傘を鞄にしまったままで校舎を出た。

 だが予想に反して機嫌の悪かった空は、ルルーシュの予想を裏切り泣きだしてしまう。次

第に激しさを増す雨足に、ずぶ濡れになるのは時間の問題だった。

 ルルーシュは足元に気をつけながら走り出す。大粒の雨はただでさえ低い体温から熱を奪

い、舌打ちしたい気分で速度を上げた。

 水分を吸っていく制服が肌にまとわりついて気持ち悪い。

 まだこの時期だからいいが、もう少し寒くなれば確実にルルーシュは風邪をひいただろう。

 そんなことになったら、またスザクの機嫌が悪くなってしまう。普段が温厚なだけに、彼

が一度機嫌を損ねると後が大変なのだ。しかも怒らせるとものすごく怖い。

 ほどなくして、見慣れた建物が見えてきた。

 後はスザクに見つかる前にシャワーを浴びて、何事もなかったかのように過ごすだけだ。


「早くしないと…」


 水滴が垂れる前髪をかきあげて足早に部屋へ向かう。

 しかし現実はそう甘くない。

 スザクはルルーシュの予測をはるかに超える存在で、そのことをルルーシュは忘れていた

のである。




「おかえり、ルルーシュ。遅かったね」

「…っ、す、スザク!?」


 自分が開く前に自動ドアのようにあいた自室の入口には、ルームメイトであるスザクが立って

いた。ルルーシュが目を丸くして驚いている目の前で、にこにこと、その顔には不自然なほど

の笑みがはりついている。


「な、なんで…?」


 スザクがここに。

 今日は試合が近いからと、生徒会とかけもちしている剣道部で練習をしているはずではなか

ったか。しかも帰りが遅くなりそうだからとも言っていたはずだ。

 ルルーシュは視線をさ迷わせて後ずさる。当然それを許すはずのないスザクは、笑顔のまま

でルルーシュの腕を掴んで引っ張った。背後でドアが閉まり、カチリと鍵のかかる音がする。


「そんなに驚いてどうしたの、ルルーシュ。それにずいぶんな格好をしているね、どうしたの

のかなぁ?」

「え?あ、…い、いや…これは…っ」

「まさかとは思うけど?」

「……や…、その…っ」

「ねえ、ルルーシュ」

「……離せスザク!」

「うん?」


 聞いてくる笑顔が怖い。動揺しているルルーシュは抵抗も出来ないうちに気がつけば浴室へ

と連れてこられていた。


「……やめろよ、その顔」

「だってルルーシュの所為だもの。……でも仕方ないか、ルルーシュだしね…そうだよね」

「なんだと!」


 うんうんと一人で勝手に納得して頷いているスザクに、ムッとした顔をして頭を軽く叩く。

 よし、少し、落ち着いた。


「まあ今はこれくらいにしとこうか。でも僕は欲張りなんだよね」

「何がこれくらいだ、意味が分からん。それにお前が欲張りなのはよく知っている」

「あれ、バレバレ?」

「隠すつもりもないくせに、よく言う…」

「必要ないからね」

「…もう黙れ」


 さっきまで情けなくうろたえてしまった分、ルルーシュはそれを消すかのように睨みつける。

スザクの前ではしょっちゅうのことなのだが、だからといって今日もなんて非常に面白くない。


「スザク、いつまでいる気だ」

「ルルーシュ」

「おい、無視するな」

「もっと、もらってもいい?」

「は?」


 会話が噛み合わない。しかもわざとなのが腹が立つ、そう胸の中で悪態をついたルルーシュの眉が

寄る。けれどしばらく経って、スザクの言葉がさっきの会話の続きだということに気がついた。

 彼の言葉を反芻したルルーシュの顔が、ぼっと赤く染まる。


「……」

「返事はくれないの?」

「……」

「欲しいな」

「……駄目だと言っても無駄のくせに……」


 本当に小さな声で呟くルルーシュの声をしっかり聞いたスザクの顔が笑みに変わっていく。

ルルーシュは悔し紛れに赤くなった顔を隠すように背を向けた。

 後ろでスザクがくすくすと笑っている。


「もういいだろう!早く出ていけよ、スザク」

「恥ずかしがる間柄でもないのに」

「……っ、す、すざく!」


 茹蛸状態のルルーシュは、近くにあった綺麗にたたまれたバスタオルをスザクに向けておも

いっきり投げつけた。

 それを難なく受け止めて、さらりととんでもない発言をくれたスザクは楽しそうに笑う。

 睨みつけても全く効果がないのが腹立たしい。

 結局最後は服を着たまま浴室へ入りドアを閉めてしまったルルーシュ。取り残された彼が笑

い声を上げた。

 出ていくものかと意地を張るも、自分を何度も呼ぶその声があまりにも優しいので、ちょこ

っと顔だけ出した目の前には笑顔のスザク。

 びっくりしたルルーシュの唇を掠めるように奪って、あっという間に離れていく。

 あまりの早業に呆気にとられ、後はかあああと音が聞こえそうなほど全身を赤く染めたルル

ーシュはその場にへたり込んだ。

 完全ノックアウト状態だ。


「………」

「ルルーシュ、シャワーを浴びるなら…」

「………」

「服を脱いでからにしなよね」


 体に力が入らないルルーシュにそう言い残し、脱衣所から出ていく。

 言葉が出せずにいる自分は、最後まで笑っているだろうスザクの後ろ姿を見送るだけ。


 どうしてどうして、毎回こうなるんだ…!


「…ば…ば…」


 馬鹿が!と、ルルーシュがおもいきり毒づいたのはいうまでもない。








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